福地温泉の温泉郷は、国道と並行している。急斜面に、黒々とした和風旅館が並ぶ。平家の落人伝説が残る山里の素朴な温泉です。
時間がさかのぼったかのような雰囲気。登山客でにぎやかな他の温泉とは対照的で、観光客の姿もたまに見かけるだけで、静かです。
「石動(いするぎ)の湯」は、温泉組合の運営する観光施設「昔ばなしの里」の敷地内にありました。観光施設といっても、温泉郷の真ん中の雑木林に駐車場と展示小屋があるだけで、それ自体が昔の山里のようなエリア。
水車の前に小さな祠があったので、いつものように道中の安全を祈願します。
建物は木造平屋建て。ノレンをくぐると受付で、左手が湯屋、右手がお休み処。印刷インクを思わせる木の香りがして、癒されます。受付のおかあさんが「露天風呂がないと、やっぱりお客様に喜んでいただけなくって。でも、相手が自然の温泉ですから、しかたありませんね。うちは源泉かけ流しなので、毎日お湯の温度が違うんですよ」とこぼしている。
ところが、僕には内風呂のほうが印象が良かった。森に囲まれた内風呂は浴槽が石造りで、周り縁が檜。この檜が風化していて実に趣がある。樽から突き出した竹から源泉が注がれて、あふれたお湯は周り縁から外に流されている。けっこうな湯量だ。木戸を開けると休止中の露天風呂がありましたが、小さな岩風呂でした。この内風呂のほうが魅力的です。
泉質は単純硫黄泉。温度は熱いときで98度というが、この日はちょっと熱めというくらい。お湯は無色透明で、茶色い湯ノ花が舞う。硫黄泉とはいうもののタマゴ臭はない。肌あたりがとても柔らかく、身体とお湯が同化してゆくような心地よさが素晴らしい。窓から緑を眺めながら、網戸から流れるそよ風を感じる。恍惚としてしまいました。
風呂あがりの温浴感も優しく、心が落ち着くというか、時を忘れる温泉です。奥飛騨は何度も足を運んでいますが、まだ魅力的な温泉がありますね。
福地温泉、文句なくお薦めします。
「福地温泉・石動の湯」
入浴料¥300-
高山市奥飛騨温泉郷福地110
0578-89-2793