館内は木の香りただよう山荘。ラウンジを中心に浴室、レストラン、ベーカリー、石窯ピザ、ジェラートカウンターが並んでいる。家族で半日楽しめそうだ。
長野市は人口が多いわりに大規模な温泉ランドがないところで、「松代荘」か、須坂の「湯っ蔵んど」くらいである。この十福の湯は長野市から少し遠いけれど、温泉リゾートとして人気があるのだろう。
浴槽は源泉かけ流しの大浴場と、露天風呂は巨大な岩風呂と岩をくり抜いた風呂や壺湯など。まだ営業を始めたばかりなので、入浴客は僕とおじさん1名だけ。ほぼ貸し切り状態。まずは源泉かけ流しの大浴場に。泉質はアルカリ性単純泉で、源泉38度。わずかに青みがかったお湯は熱めで匂いはなし。肌あたりは柔らかくさらさらとしている。お湯の効能はじわりと入ってくるから、ぬるめのほうが長湯ができそうだ。そこで露天風呂に移ると、こちらはぬるめで期待どおり。露天風呂は巨大な岩風呂で、水深が深い。毎分355Lの湧出量はダテじゃない。首を岩にあずけ、カラマツ林を眺めながらフィトンチッドを浴びる。あゝ極楽。
ふと、原生林とのあいだを仕切るように立てられた竹垣に違和感をおぼえる。竹垣は井桁格子なのだが、枠が妙にスカスカで、子供なら枠を通り抜けられそうである。お湯のなかをじゃぶじゃぶと歩いて、近づいてみる。
ふ〜ん?この竹垣は、なにかが岩風呂に入ってこないよう抑止の効果なのかな?
と、その竹垣の向こうにカモシカがいて、すっ裸の僕を見ている!
「カモシカですっ!」 僕の背後のおじさんを振り向くと、おじさんは「ええ、カモシカですねぇ〜」と、首まで浸かったまま、ぜえんぜえん動じない。カモシカはというと「ふん、朝からつまらんものを見てしまった」という顔をして、悠然と原生林の奥に消えてしまった。みんな、なんなん?(笑)
初めて露天風呂で動物と対峙してしまった。興奮が醒めぬまま着替えたので、温浴感はどうだったか忘れてしまった。おまけに、たいへん美味しいと評判のレストランも、利用するのを忘れてしまった。
十福の湯、お湯はいいし、設備もたいへん素晴らしい。涼しいところなので、夏は避暑と森林浴とを満喫できる。文句なくお薦めで、旅の目的になり得る温泉でした。
温泉を発って、再び県道を登ってゆくと、すぐに峠が現れる。新地蔵峠(1,033m)である。
ここからは、急坂を転がり落ちるようなワインディングロード。
せっかく涼しかったのに、どんどん暑くなる。
山を下りきった松代の街では、気温はもとどおりの34度。